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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)222号 判決

東京都大田区久が原5丁目13番12号

原告

株式会社 寺岡精工

(旧商号 株式会社 寺岡精工所)

同代表者代表取締役

寺岡和治

同訴訟代理人弁理士

志賀正武

渡辺隆

同訴訟復代理人弁理士

久保田健治

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

同指定代理人

奥井正樹

大元修二

瀬口照雄

中村友之

宮本昭男

井上元廣

関口博

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

一  特許庁が平成2年審判第6656号事件及び同第6657号事件について平成4年9月1日にした審決をいずれも取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  当事者間に争いのない事実

(以下、第222号事件を「甲事件」、第223号事件を「乙事件」という。)

一  甲事件について

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和55年2月26日、名称を「電子秤用ラベル印字装置」とする発明につき特許出願(昭和55年特許願第23260号、以下、同出願に係る発明を「本願第1発明」という。)をしたが、平成2年3月27日拒絶査定を受けたので、同年4月26日審判を請求した。特許庁は、この請求を同年審判第6656号事件として審理した結果、平成4年9月1日、請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は同年10月19日原告に送達された。

2  本願第1発明の要旨

供給された文字パターンにしたがってラベルに文字をドットプリントするプリンタと、

種々の文字パターンを品名キーワードと対応付けて記憶する第1のメモリと、

書込みおよび読出しが可能であって、複数の品名キーワードを1つの品名コードと対応付けて記憶する第2のメモリと、

商品の品名コードおよび品名キーワードとを入力する入力装置とを備え、

前記第2のメモリの書込み/読出しを指定する切換手段と、

前記切換手段によって前記第2のメモリを書込み状態にしたときに前記入力装置から入力された品名コードに対応して該入力装置から入力された品名キーワードを該第2のメモリに書き込む第1の制御手段と、

前記切換手段によって前記第2のメモリを読出し状態にしたときに前記入力装置から入力された品名コードに対応する複数の品名キーワードを該第2のメモリから読出し、その読み出した品名キーワードのそれぞれに対応する文字パターンを前記第1のメモリから読み出して前記プリンタに供給する第2の制御手段と

を具備してなることを特徴とする電子秤用ラベル印字装置。(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1) 本願第1発明の要旨は前項記載のとおりである。

(2) これに対し、実願昭52-63722号(実開昭53-157700号公報)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和53年12月11日特許庁発行)(以下「引用例」といい、引用例記載の発明を「引用発明」という。)には、その明細書5頁8行ないし6頁10行に「また、前記品目選択スイッチS1~Snの出力・・・の場合の文字パタン信号の例を示す。」点、及び同明細書8頁14行ないし18行に「品目選択スイッチとして例えばテンキースイッチの・・・操作により品目を選択するようにしてもよい。」点がそれぞれ記載されており、当該記載の趣旨、及び、ドット印刷においては、情報処理装置から与えられる文字コードを対応する文字パターン情報に変換、出力するための文字パターン発生用の記憶装置、制御装置を備えることが周知事項(必要ならば、特開昭54-59836号公報、特開昭54-53835号公報等参照)であることを勘案すれば、引用例には、“品名を数値におきかえて品目を選択するようにしたテンキースイッチ(符号14)に品名を表す数値が入力され、前記テンキースイッチの出力は、品目-印字パターン変換部(符号20)において、前記周知の文字パターン発生用の記憶装置、制御装置の作用の如く、当該入力された数値に対応する、例えば「牛肉スキヤキ用」等の品名の一連文字パターンが検出され、品名の一連文字パターンを構成する1字1字の文字コードと文字パターンが対応付けられ、その出力が品名印字部(符号25)に入力されて、ラベルに当該一連文字パターンが重量、単価等と共にドット印刷される、電子秤におけるラベル発行装置”が記載されているものと認められる。(別紙図面3参照)

(3) そこで、本願第1発明と引用発明とを比較すると、前者における「文字パターン」「品名キーワード」「品名コード」「入力装置」「第1のメモリ」「第2の制御手段」は、各々後者における「文字パターン」「文字コード」「品名を数値に置き換えたもの」「テンキー」「文字パターン発生用の記憶装置」「文字パターン発生用の制御装置」に対応するとともに、後者における「文字パターン発生用の記憶装置」が前者の「第2のメモリ」の一部の作用を行う点に徴すれば、両者は、“供給された文字パターンにしたがってラベルに文字をドットプリントするプリンタと、

種々の文字パターンを品名キーワードと対応付けて記憶する第1のメモリと、

読出しが可能であって、複数の品名キーワードを1つの品名コードと対応付けて記憶するメモリと、

商品の品名コードを入力する入力装置とを備え、

前記メモリが読出し状態にあるときに前記入力装置から入力された品名コードに対応する複数の品名キーワードを該メモリから読出し、その読み出した品名キーワードのそれぞれに対応する文字パターンを前記第1のメモリから読み出して前記プリンタに供給する第2の制御手段と

を具備してなることを特徴とする電子秤用ラベル印字装置”の点で一致し、相違する点は、本願第1発明では品名コードを書込み/読出可能、すなわち、書込み/読出しを指定する切換手段、及び品名キーワードをメモリに書き込むための第1の制御手段を設けると共に、入力装置を品名キーワード書込み手段として用いるような構成としているのに対し、引用発明は、当該コードの書込みについては何等記載されていない点である。

(4) そこで、前記相違点について検討する。

〈1〉 読出し/書込み可能な制御手段を備えた記憶装置は周知の記憶装置であり、しかも、当該記憶装置においては、選択スイッチなどの切換手段を用いて、読出し/書込みの切換えを行うと共に、読出し/書込みの入力手段として同一入力装置を用いることは一般に行われている技術手段(必要ならば、特開昭52-126253号公報参照)である。

〈2〉 さらに、当該記憶装置の使用箇所として、変更するようなデータの記憶に用いることは技術常識であり、商品の品名も未来永劫変化しないものではないことは当業者にとって当然ともいえるべきものであるから、変化する品名の記憶装置、すなわち、品名コードと品名キーワードの対応付けを記憶する記憶装置として、読出し/書込み可能な記憶装置を選択採用すること、及び、その際に、前記一般に行われている技術手段にて読出し/書込みを行わせることは、当業者ならば容易に想到できることである。

(5) 以上のように、前記相違点は格別のものとは認められないので、本願第1発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

二  乙事件について

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和55年2月26日、名称を「電子秤用ラベル印字装置」とする発明につき特許出願(昭和55年特許願第23261号、以下、同出願に係る発明を「本願第2発明」という。)をしたが、平成2年3月27日拒絶査定を受けたので、同年4月26日審判を請求した。特許庁は、この請求を同年審判第6657号事件として審理した結果、平成4年9月1日、請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は同年10月19日原告に送達された。

2  本願第2発明の要旨

供給された文字パターンにしたがってラベルに文字をドットプリントするプリンタと、

種々の文字パターンを文字キーワードと対応付けて記憶する第1のメモリと、

複数の文字キーワードを1つの熟語キーワードと対応付けて記憶する第3のメモリと、

書込みおよび読出しが可能であって、複数の文字キーワードおよび/または熟語キーワードを1つの品名コードと対応付けて記憶する第2のメモリと、

商品の品名コード、文字キーワードおよび熟語キーワードを入力する入力装置と、

前記第2のメモリの書込み/読出しを切換える切換手段と、

前記切換手段によって前記第2のメモリを書込み状態にしたときに前記入力装置から入力された品名コードに対応して該入力装置から入力された文字キーワードおよび/または熟語キーワードを該第2のメモリに書き込む第1の制御手段と、

前記切換手段によって前記第2のメモリを読出し状態にしたときに前記入力装置から入力された品名コードに対応する複数の文字キーワードおよび/または熟語キーワードを該第2のメモリから読み出し、文字キーワードを読み出したときは、その文字キーワードに対応する文字パターンを前記第1のメモリから読み出して前記プリンタに供給し、熟語キーワードを読み出したときは、その熟語キーワードに対応する複数の文字キーワードを前記第3のメモリから読み出してから、それらの文字キーワードに対応する文字パターンを前記第1のメモリから読み出して前記プリンタに供給する第2の制御手段とを具備してなることを特徴とする電子秤用ラベル印字装置。(別紙図面2参照)

3  審決の理由の要点

(1) 本願第2発明の要旨は前項記載のとおりである。

(2) 前記一項3(2)と同一の内容である。

(3) そこで、本願第2発明と引用発明とを比較すると、前者における「文字パターン」「文字キーワード」「品名コード」「入力装置」「第1のメモリ」は、各々後者における「文字パターン」「文字コード」「品名を数値に置き換えたもの」「テンキー」「文字パターン発生用の記憶装置」に対応するとともに、後者における「文字パターン発生用の記憶装置」「文字パターン発生用の制御装置」が、各々前者における「第2のメモリ」「第2の制御手段」の一部の作用を行う点に徴すれば、両者は、“供給された文字パターンにしたがってラベルに文字をドットプリントするプリンタと、

種々の文字パターンを文字キーワードと対応付けて記憶する第1のメモリと、

読出しが可能であって、複数の文字キーワードを1つの品名コードと対応付けて記憶するメモリと、

商品の品名コードを入力する入力装置と、

前記メモリが読出し状態にあるときに前記入力装置から入力された品名コードに対応する複数の文字キーワードを前記メモリから読み出し、その読み出した文字キーワードに対応する文字パターンを前記第1のメモリから読み出して前記プリンタに供給する制御手段と

を具備してなることを特徴とする電子秤用ラベル印字装置”の点で一致し、以下の点で相違する。

〈1〉 品名コードに対応するキーワードとして、本願第2発明では文字キーワードのみならず、熟語キーワードをも用い、そのために、文字キーワードと同様に、1つの熟語キーワードを複数の文字キーワードと対応付けるための第3のメモリ、及び制御手段を具備しているのに対し、引用例には、熟語キーワードを用いること、及びそのためのメモリ、制御手段については記載されていない点(相違点〈1〉)。

〈2〉 本願第2発明では品名コードを書込み/読出し可能、すなわち、書込み/読出しを指定する切換手段、及び文字キーワードおよび/または熟語キーワードをメモリに書き込むための第1の制御手段を設けると共に、入力装置を文字キーワード及び熟語キーワード書込み手段として用いるような構成としているのに対し、引用例には、当該コードの書込みについては何等記載されていない点(相違点〈2〉)。

(4) そこで、前記相違点について検討する。

〈1〉 相違点〈1〉について

(a) 単一の入力文字に対応して複数の文字を発生させること、すなわち、1つの熟語キーワードと複数の文字キーワードを対応付けることは、特公昭51-1369号公報にも示されているように周知の短縮技術である。したがって、品名コードに前記周知の短縮技術である熟語キーワードを使用することは、短縮すべき文字列の使用頻度を勘案して当業者が必要に応じて行う設計的事項である。

(b) さらに、当該使用に基づく熟語キーワードのドット印刷に際して、引用例において既に周知事項と認定した、品名コードー文字キーワードによるドット印刷と同様の手段(記憶装置、制御手段)を用いることも当業者ならば必要に応じてなし得る程度のことである。

〈2〉 相違点〈2〉について

(a) 前記一項3(4)〈1〉と同一の内容である。

(b) 「品名キーワード」を「文字キーワードおよび/または熟語キーワード」とする他は、前記一項3(4)〈2〉と同一の内容である。

(5) 以上のように、前記相違点は格別のものとは認められないので、本願第2発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第三  原告主張の審決取消事由

一  甲事件について

1  審決の理由の要点(2)のうち、「前記周知の文字パターン発生用の記憶装置、制御装置の作用の如く、当該入力された数値に対応する、例えば『牛肉スキヤキ用』等の品名の一連文字パターンが検出され、品名の一連文字パターンを構成する1字1字の文字コードと文字パターンが対応付けられ、」との部分は争い、その余は認める。同(3)のうち、本願第1発明における「文字パターン」「品名コード」「入力装置」が、各々引用発明における「文字パターン」「品名を数値に置き換えたもの」「テンキー」に対応すること、一致点の認定のうち「供給された文字パターンにしたがってラベルに文字をドットプリントするプリンタと、商品の品名コードを入力する入力装置を備えた電子秤用ラベル印字装置」である点で一致すること、及び相違点の認定は認めるが、その余は争う。同(4)〈1〉は認めるが、同(4)〈2〉、(5)は争う。

2  取消事由1(一致点の認定の誤り)

(1) 審決は、引用例には、テンキースイッチの出力は、品目-印字パターン変換部(符号20)において、「周知の文字パターン発生用の記憶装置、制御装置の作用の如く、当該入力された数値に対応する、例えば『牛肉スキヤキ用』等の品名の一連文字パターンが検出され、品名の一連文字パターンを構成する1字1字の文字コードと文字パターンが対応付けられ」る電子秤におけるラベル発行装置が記載されている旨認定している。

しかし、引用例の明細書の「品目-文字パタン変換部20は品目選択スイッチ群S1~Snのそれぞれに対応する品名に対応する文字パタン、すなわち、その品名を形成するための点の組合わせ情報を記憶し、S1~Snのうちのオン操作されたスイッチに対応した品名に対応する文字パタン信号を選択的に出力するように構成されたもので、第3図(b)に『牛肉スキヤキ用』の場合の文字パタン信号の例を示す。」(6頁2行ないし10行)との記載及び第3図(b)によれば、引用発明においては、品名を構成する一連の文字パターンの組合わせが、品名毎に1組となって記憶されていることは明らかであって、品名を形成するための点の組合わせ情報(文字パターンの組)を記憶し、入力数値もしくはオン操作された品目選択スイッチS1~Snに対応したものを選択的に出力するようにしているものである。すなわち、文字コードを介在させることなく、直接一連文字パターンを読み出しているのであって、審決のいう周知技術が適用される余地はない。さらに、引用例には、文字コードによって文字パターンを指示するという記載はなく、かつ、正確に単価設定及び品名の交換を行うという所期の効果を得るためにその必要もないものである。

(2) 上記のとおり、引用発明においては、文字コードを用いるという構成がそもそも存在せず、また、文字パターン発生用の記憶装置も、文字パターンの組合わせが数値(商品コード)に対応して記憶されており、本願第1発明の第1のメモリに相当するものではない。したがって、本願第1発明の「品名キーワード」「第1のメモリ」が、引用発明の「文字コード」「文字パターン発生用の記憶装置」にそれぞれ対応する旨の審決の認定は誤りである。また、引用発明には、文字コードを使用するという構成がないため、品名に対応させて複数の文字コードを記憶するという構成もないのであるから、引用発明における「文字パターン発生用の記憶装置」が本願第1発明の「第2のメモリ」の一部の作用を行うとする審決の認定も誤りである。

(3) 以上のとおりであるから、本願第1発明と引用発明とが、「種々の文字パターンを品名キーワードと対応付けて記憶する第1のメモリ」「読出しが可能であって、複数の品名キーワードを1つの品名コードと対応付けて記憶するメモリ」「前記入力装置から入力された品名コードに対応する複数の品名キーワードを該メモリから読み出し、その読み出した品名キーワードのそれぞれに対応する文字パターンを前記第1のメモリから読み出して前記プリンタに供給する第2の制御手段」を具備する点で一致するとした審決の認定は誤りである。

(4) 被告は、引用例に「・・・その1文字は縦方向に18分割、横方向に15分割した番地上の点の組合わせにより表現されている」、「15回印字動作して1文字を形成する印字送り機構を有するものである」と記載されていることを根拠として、印字に使用される文字パターンが1文字単位の文字パターンである旨主張しているが上記記載は単に、1文字を構成するドットの数を言い表しているにすぎないし、横方向に15分割しているから1文字分を印字するのに15回の印字動作が必要であることを指摘しているにとどまり、上記記載からそれ以上のことを読み取ることはできない。

また被告は、甲第5号証、乙第1、第2号証に基づいて、1文字の文字パターンには1つの文字コードが対応付けられていることが、この技術分野において周知の技術である旨主張しているが、同各号証に記載されているものは、いわゆる日本語ワードプロセッサで用いられる汎用の漢字プリンターに関する技術であり、ラベル印字装置に関する技術ではない。本願第1発明や引用発明が対象としているラベル印字装置は、たかだか数10個から100個程度の固定された品名(印字データ)を取り扱うものであるために、ワープロにおける汎用の漢字プリンターとは異なる独特の発展過程を辿ってきたものである。すなわち、品名をスタンプで押捺する場合には、1個1個の活字を組合わせるのではなく、単語として1つの品名を1個のスタンプで表して使ったり、例えば、スタンプに代えてドットプリンターを用いて印字する定期券の場合、駅名を1文字毎にメモリに記憶させるのではなく、文字列である駅名それ自体がメモリに記憶され、読み出されている。以上の点を踏まえて考えると、引用発明において、もし文字パターンに1対1で文字コードが対応しているのであれば、引用例にはその旨の記載がなされていてしかるべきである。にもかかわらず、引用例にはそのような記載ないし示唆はなく、単に「品目-印字パタン変換部20の品目選択スイッチ群S1~Snのそれぞれに対応する品名に対応する文字パタン、すなわち品名を形成するための点の組合わせ情報を記憶し」と記載されているだけであることからすると、品名コードに対応して、品名を表した単語の文字パターン列が直接対応していると理解するのが正当である。

3  取消事由2(相違点についての判断の誤り)

審決は、読出し/書込みの切換えを行う記憶装置が周知であるとした上、そのような記憶装置を変化する品名の記憶装置、すなわち品名コードと品名キーワードの対応付けを記憶する記憶装置として用いることは当業者ならば容易に想到できることである旨判断している。

しかし、本願第1発明においては、品名コードと複数の品名キーワードとを対応付けるという技術思想、及びその対応付けを可変にするという技術思想に基づいて、入力装置、第1の制御手段、第2のメモリ、及び切換手段の各要素を有機的に結合し、これらの有機的な結合の中において、書込み/読出し可能な記憶装置の特質を活かしているのであって、その用い方に技術思想としての創作性が存在するのであるから、上記判断は誤りである。

二  乙事件について

1  審決の理由の要点(2)のうち、「前記周知の文字パターン発生用の記憶装置、制御装置の作用の如く、当該入力された数値に対応する、例えば『牛肉スキヤキ用』等の品名の一連文字パターンが検出され、品名の一連文字パターンを構成する1字1字の文字コードと文字パターンが対応付けられ、」との部分は争い、その余は認める。同(3)のうち、本願第2発明における「文字パターン」「品名コード」「入力装置」が、各々引用発明における「文字パターン」「品名を数値に置き換えたもの」「テンキー」に対応すること、一致点の認定のうち「供給された文字パターンにしたがってラベルに文字をドットプリントするプリンタと、商品の品名コードを入力する入力装置を備えた電子秤用ラベル印字装置」である点で一致すること、及び相違点の認定は認めるが、その余は争う。同(4)〈1〉(a)は認めるが、同(4)〈1〉(b)は争う。同(4)〈2〉(a)は認めるが、同(4)〈2〉(b)は争う。同〈5〉は争う。

2  取消事由1(一致点の認定の誤り)

(1) 前記一項2(1)記載の内容(但し、「本願第1発明」を「本願第2発明」としたもの)と同一である。

(2) 上記のとおり、引用発明においては、文字コードを用いるという構成がそもそも存在せず、また、文字パターン発生用の記憶装置も、文字パターンの組合わせが数値(商品コード)に対応して記憶されており、本願第2発明の第1のメモリに相当するものではない。したがって、本願第2発明の「文字キーワード」「第1のメモリ」が、引用発明の「文字コード」「文字パターン発生用の記憶装置」にそれぞれ対応する旨の審決の認定は誤りである。さらに、引用発明には、文字コードを使用するという構成がないため、品名に対応させて複数の文字コードを記憶するという構成もなく、また、読み出した文字コードを用いて文字パターンを選択するという構成もない。しかも、熟語キーワードを示唆する構成は全く存在しない。したがって、引用発明における「文字パターン発生用の記憶装置」「文字パターン発生用の制御装置」が、各々本願第2発明の「第2のメモリ」「第2の制御手段」の一部の作用を行うとする審決の認定も誤りである。

(3) 以上のとおりであるから、本願第2発明と引用発明とが、「種々の文字パターンを文字キーワードと対応付けて記憶する第1のメモリ」「読出しが可能であって、複数の文字キーワードを1つの品名コードと対応付けて記憶するメモリ」「前記メモリが読出し状態にあるときに前記入力装置から入力された品名コードに対応する複数の文字キーワードを前記メモリから読出し、その読み出した文字キーワードに対応する文字パターンを前記第1のメモリから読み出して前記プリンタに供給する制御手段」を具備する点で一致するとした審決の認定は誤りである。

(4) 前記一項2(4)記載の内容と同一である。

3  取消事由2(相違点〈1〉についての判断の誤り)

本願第2発明は、1つの熟語キーワードに複数の文字コードを対応させる技術にとどまるものではなく、第2のメモリにおける品名の編集に際して熟語キーワードによる迅速な文字設定を行い得るようにし、かつ、印刷時には、第2のメモリから読み出された熟語キーワードを第3のメモリを用いて複数の文字キーワードに展開し、これらの文字キーワードに基づいて第1のメモリ内の文字パターンを読み出すようにしており、文字キーワードと熟語キーワードの対応付けのみならず、第1、第2、第3の各メモリを用いた連係動作を行う技術内容となっている。そして、本願第2発明の技術内容は、引用例及び甲第8号証の1には全く記載がなく、したがって、相違点〈1〉は、引用発明及び甲第8号証の1に示される周知技術からは容易になし得るものではない。

また、引用発明では、品名コードと文字キーワードとの対応付けは行っていないから、「当該使用に基づく熟語キーワードのドット印刷に際して、引用例において既に周知事項と認定した、品名コードー文字キーワードによるドット印刷と同様の手段(記憶装置、制御装置)を用いることも当業者ならば必要に応じてなし得る程度のことである」とした審決の判断も誤りである。

4  取消事由3(相違点〈2〉についての判断の誤り)

前記一項3記載の内容(但し、「本願第1発明」を「本願第2発明」と、「品名キーワード」を「文字キーワードおよび/または熟語キーワード」としたもの)と同一である。

第四  被告の反論

一  甲事件について

1  取消事由1について

(1) 引用例の明細書には「第3図(a)にその印字例を示す。・・・その1文字は縦方向に18分割、横方向に15分割した番地上の点の組合わせにより表現されている。」(5頁13行ないし17行)、「品名印字部は・・・この印字機構またはラベルを横方向に移動させ15回印字動作をして、1文字を形成する印字機構送り機能を有するものである。」(5頁18行ないし6頁2行)と記載されており、その記載表現及びここで使用されている印字機構が1文字毎に逐次印刷する1文字単位の印字制御を行う方式のドット印刷手段であることから、ここでの印字に使用される文字パターンは1文字単位の文字パターンであると認識される。しかも、ドット印刷により、例えば名称等の文字列の印刷を行うに際して、情報処理装置へ入力された文字コードを、1つの入力文字コードに応じて1つの文字パターン情報(1つの文字を形成するための点の組合わせ情報)を出力する文字パターン発生用の記憶装置(キャラクタジェネレータ)へ与えて、必要な文字パターン情報を読み出して一時的記憶装置に蓄えて記憶し、これをドット印刷手段(ドットプリンタ)に応じた文字パターン信号に変換して当該印刷手段へ送出することにより、当該入力された文字コードに応じた文字を印刷するための制御手段を具備する文字列-文字パターン変換手段を用いることは、甲第5号証、乙第1、第2号証からも明らかなとおり、この技術分野においてきわめて基本的な技術であり、また常套手段である。

以上の事実等を考慮すれば、引用発明における「品目-文字パタン変換部」も当然文字コードを使用する文字列-文字パターン変換手段を用いているものとして、引用例1の記載内容を審決摘示のとおり解釈することは、当業者にとってはきわめて自然な解釈ということができ、審決の認定に誤りはない。

(2) 前項で述べたとおり、当業者が技術常識に照らして解釈すれば、引用例には文字コードを使用する文字列-文字パターン変換手段を用いる構成が開示されているものといえる。

したがって、審決の一致点の認定に誤りはない。

2  取消事由2について

品名コードと複数の品名キーワードとを対応付けるという技術思想は、引用発明における品目-文字パターン変換技術の構成の一部をなすものであり、また、その対応付けを可変にするという技術思想、言い換えれば、品名を変更することを可能にするという技術思想は、審決において指摘したように、商品名を変更する必要性が当業者において当然認識されていることであるから容易に想起されるものである。そして、この品名を変更することを可能にする技術手段を採用するに当たって、変更する対象となるものを、通常書換えができない記憶手段が用いられる文字パターン発生用の記憶装置ではなく、品名コードと品名キーワード(引用発明における文字コード)とを対応付けた記憶手段(メモリ)とすることはきわめて自然な選択であり、また、当該記憶手段(メモリ)が読出し可能なものとして使用されるものである以上、審決において示した周知例のように、当該記憶手段を切換手段を用いて書込み/読出し可能な記憶装置とすることは必然的設計事項である。

したがって、本願第1発明における前記技術思想は引用発明から把握できるもの、または当業者が容易に想起し得るものであり、かつ、本願第1発明における「入力装置、第1の制御手段、第2のメモリ、及び切換手段の各要素」の組合わせも、当業者が周知手段に基づき、当該採用する一連の設計事項にすぎないものであるから、特に、有機的に結合されたものと判断することはできず、相違点につき当業者ならば容易に想到できることであるとした審決の判断に誤りはない。

二  乙事件関係について

1  取消事由1について

前記一項1記載の内容と同一である。

2  取消事由2について

甲第8号証の1には、1つの文字キーを押すことにより出力される文字コードに応じて複数の文字コードを発生させる技術が記載されており、この最初の文字コードを熟語キーワードと表現すれば、1つの熟語キーワードに対応して複数の文字コードを記憶手段(本願第2発明の第3のメモリに相当する)から発生させる技術が記載されているといえる。そして、この周知技術は、操作者による文字入力作業の省力化を目的とする短縮技術である以上、文字入力作業を伴う品名の編集作業に際して、迅速な文字設定を行い得るようにするために、当該周知技術を用いることは、当業者が容易に想起し得るところであり、しかも、当該周知技術を採用するに当たって、編集作業すなわち書込み作業が唯一可能な、書込み/読出し可能な記憶装置、すなわち品名コードと複数の文字キーワードとを対応付けて記憶させた記憶装置を対象としてその書込み用とすることは、当然の選択であり、また、この選択に基づけば、本願第2発明における第1、第2、第3の各メモリを用いた品名の編集時及び印刷時のための連係動作を行う制御技術の内容は共に必然的に定まる設計事項である。

したがって、相違点〈1〉につき当業者が必要に応じて容易に実施し得ることとした審決の判断に誤りはない。

3  取消事由3について

前記一項2記載の内容(但し、「本願第1発明」を「本願第2発明」と、「品名キーワード」を「文字キーワード」としたもの)と同一である。

第五  原告主張の取消事由に対する判断

(引用する各書証の成立は、当事者間に争いがない。)

一  引用例(甲第4号証)の明細書5頁8行ないし6頁10行に「また、前記品目選択スイッチS1~Snの出力側は品目-文字パタン変換部20にも接続され、この変換部20の出力は品名印字部25に供給される。ここで品名印字部25は点の配列によって文字(記号を含む)を後述するラベルに印字するもので、第3図(a)にその印字例を示す。この図では『牛肉スキヤキ用』なる7文字で構成される品名例を示すが、その1文字は縦方向に18分割、横方向に15分割した番地上の点の組合わせにより表現されている。すなわち、品名印字部は縦方向に18個の点を同時に印字し得る印字機構及び、この印字機構またはラベルを横方向に移動させ15回印字動作をして、1文字を形成する印字機構送り機能を有するものである。従って品目-文字パタン変換部20は品目選択スイッチ群S1~Snのそれぞれに対応する品名に対応する文字パタン、すなわち、その品名を形成するための点の組合わせ情報を記憶し、S1~Snのうちのオン操作されたスイッチに対応した品名に対応する文字パタン信号を選択的に出力するように構成されたもので、第3図(b)に『牛肉スキヤキ用』の場合の文字パタン信号の例を示す。」、同8頁14行ないし18行に「品目選択スイッチとして例えばテンキースイッチのごとき数値設定スイッチを使用し、品名を数値におきかえ、数値設定スイッチの操作により品名を選択するようにしてもよい。」とそれぞれ記載されていること、ドット印刷においては、情報処理装置から与えられる文字コードを、対応する文字パターン情報に変換、出力するための文字パターン発生用の記憶装置、制御装置を備えることが周知であること、引用例には、「前記周知の文字パターン発生用の記憶装置、制御装置の作用の如く、当該入力された数値に対応する、例えば『牛肉スキヤキ用』等の品名の一連文字パターンが検出され、品名の一連文字パターンを構成する1字1字の文字コードと文字パターンが対応付けられ、」との部分を除いて、審決認定の構成に係る「電子秤におけるラベル発行装置」が記載されていること、本願第1・第2発明における各「文字パターン」「品名コード」「入力装置」が、各々引用発明における「文字パターン」「品名を数値に置き換えたもの」「テンキー」に対応すること、本願第1・第2発明と引用発明とは「供給された文字パターンにしたがってラベルに文字をドットプリントするプリンタと、商品の品名コードを入力する入力装置を備えた電子秤用ラベル印字装置」である点で一致すること、及び本願第1・第2発明と引用発明との間に審決認定の相違点があることは、いずれも当事者間に争いがない。

二  甲事件及び乙事件の各取消事由1について

標記の取消事由はいずれも、本願第1・第2発明と引用発明との一致点の認定の誤りを主張するもので内容的に共通するので、一括して判断する。

1  原告は、引用例記載の電子秤におけるラベル発行装置につき、テンキースイッチの出力は品目-印字パターンの変換部(符号20)において、「周知の文字パターン発生用の記憶装置、制御装置の作用の如く、当該入力された数値に対応する、例えば『牛肉スキヤキ用』等の品名の一連文字パターンが検出され、品名の一連文字パターンを構成する1字1字の文字コードと文字パターンが対応づけられ」たものであるとした審決の認定を争うのでこの点について検討する。

(1) 上記一項のとおり、ドット印刷においては、情報処理装置から与えられる文字コードを、対応する文字パターン情報に変換、出力するための文字パターン発生用の記憶装置、制御装置を備えることは周知であり、このことと、甲第5号証(特開昭54-59836号公報)、乙第1号証(特公昭52-24819号公報)及び第2号証(特開昭51-221号公報)を総合すると、漢字プリンターのドット印刷においては、文字パターンを文字単位毎に記憶し、出力するものであること、すなわち、文字コードを、文字単位で記憶した文字パターン情報に変換、出力することは、ドット印刷を用いる技術分野において、きわめて周知慣用の技術であると認められる。

他方、引用例には、上記のとおり、「第3図(a)にその印字例を示す。・・・その1文字は(注 下線は当裁判所において付加したもの)縦方向に18分割、横方向に15分割した番地上の点の組合わせにより表現されている。」「品名印字部は・・・この印字機構またはラベルを横方向に移動させ15回印字動作をして、1文字を形成する印字機構送り機能を有するものである。」と記載され、第3図(a)には「牛肉スキヤキ用」の文字パターンが文字毎に記載されている(別紙図面3参照)ところ、仮に、品名を構成する一連の文字パターンが一体として組合わされて記憶されている場合には、文字毎にどのように表現され、かつ印刷されるかは関係のない事項であるから、通常は、上記のような1文字についての数値限定的な表現は用いられないものと考えられる。

この点について原告は、引用例の上記記載は単に、1文字を構成するドットの数を言い表しているにすぎないし、横方向に15分割しているから1文字分を印字するのに15回の印字動作が必要であることを指摘しているにとどまる旨主張しているが、引用例が1文字分のことを取り上げて記載していること自体、印字に使用される文字パターンが1文字単位の文字パターンであることを窺わせるものである。

以上のとおり、ドット印刷を用いる技術分野においては、文字パターンを文字単位毎に記憶し、出力する技術、すなわち、文字コードを文字単位で記憶して文字パターン情報に変換、出力する技術が周知慣用のものであること、及び、引用例には、品名を構成する一連の文字パターンの組合わせが品名毎に1組となって記憶されている旨の記載はなく、印字に使用される文字パターンが1文字単位の文字パターンであることを窺わせる記載があることからすると、当業者は、引用発明においても、上記の周知慣用技術が採用されているものと解釈するのが自然であると認めるのが相当である。

したがって、引用例には「品名の一連文字パターンを構成する1字1字の文字コードと文字パターンが対応づけられ」た電子秤におけるラベル発行装置が記載されているとした審決の認定に誤りはないものというべきである。

(2)〈1〉 原告は、引用例の明細書の「品目-文字パタン変換部20は品目選択スイッチ群S1~Snのそれぞれに対応する品名に対応する文字パタン、すなわち、その品名を形成するための点の組合わせ情報を記憶し、S1~Snのうちのオン操作されたスイッチに対応した品名に対応する文字パタン信号を選択的に出力するように構成されたもので、第3図(b)に『牛肉スキヤキ用』の場合の文字パタン信号の例を示す。」との記載及び第3図(b)によれば、引用発明においては、品名を構成する一連の文字パターンの組合わせが、品名毎に1組になって記憶されていることは明らかであり、文字コードを介在させることなく、直接一連文字パターンを読み出している旨主張する。

上記記載中「品名に対応する文字パタン」とは、品名を構成する一連の文字パターンのことであるが、「品名を形成するための点の組合わせ情報」における「点の組合わせ」は、引用例の「その1文字は縦方向に18分割、横方向に15分割した番地上の点の組合わせにより表現されている。」(5頁15行ないし17行)との記載からしても、1つの文字を構成する点の組合わせを意味していることは明らかであるから、「品名に対応する文字パタン」との記載から、一連の文字パターンがそのまま点の組合わせ情報として記憶されているとまでは認め難い。そして、甲第4号証によれば、引用例の第3図(b)は、品名を印字するための文字パターン信号の例を示す図であって、記憶内容を示すものでないことは明らかである。

したがって、引用例の明細書の上記記載及び図面を根拠とする原告の上記主張は採用できない。

〈2〉 原告は、甲第5号証、乙第1・第2号証記載の技術は日本語ワードプロセッサで用いられる汎用の漢字プリンターに関するものであって、ラベル印字装置に関する技術とは異なり、ラベル印字装置は汎用の漢字プリンターの技術とは異なった発展過程を辿ってきたものであることなどを理由として、引用発明において、もし文字パターンに1対1で文字コードが対応しているのであれば、引用例にはその旨の記載がなされていてしかるべきであるのに、そのような記載ないし示唆がないということは、引用発明においては、品名コードに対応して品名を表した単語の文字パターン列が直接対応していると理解するのが正当である旨主張する。

上記各号証には、ドット印刷の印字パターン発生に関する技術が記載されているところ、ラベル印字装置でも、ドット印刷によりラベル印字をする場合には、印字パターン発生に関する技術が用いられるのであるから、この点においては、上記各号証記載のものと技術上共通しているものということができる。ただ、ラベル印字装置においては、印刷(印字)の対象がラベルに限定されているのに対し、汎用の漢字プリンターにおいてはそのような限定はないが、このことが当然に、ドット印刷手段の印字パターン発生技術に相違をもたらすものでないことは明らかである。

次に、甲第8号証の2(特開昭49-110378号公報)、第9号証(特開昭50-101065号公報)第10号証(特開昭51-88149号公報)及び第11号証(特開昭52-4872号公報)によれば、従来より、押捺してラベルに印字するスタンプは、1個1個の活字を組合わせるのではなく、単語として1つの品名を1個のスタンプに表して使用していたこと、甲第12号証(特開昭49-68799号公報)及び第13号証(特開昭49-63500号公報)には、駅名が1文字毎にメモリに記憶されているのではなく、駅名それ自体がメモリに記憶され、かつ、読み出されて、定期乗車券等にドット印字されるものが記載されていること、甲第14号証の1(実開昭52-8461号公報)・同号証の2(実公昭55-29075号公報)には、「電子式表示秤における商品名印字装置」において、商品名を印字するための、商品名が彫り抜かれている光学的不導性物質からなる「商品名指定板」について記載されており、別の商品を印字する場合には商品名指定板を交換して行うこと(但し、印字手段がドット印刷手段であることや、印字パターンをどのように形成するかについては記載されていない。)、甲第14号証の3(特開昭54-102160号公報)には、ラベル印字において、品名を印刷したベースフィルムを品名毎に予め用意しておき、これを用いてドット印字を行うものが記載されていること、がそれぞれ認められる。

しかし、上記各事実を総合しても、ドット印刷によるラベル印字装置において、品名コードに対応して品名を表した単語の文字パターン列が直接対応している技術が、本願第1・第2発明の出願前における周知慣用の技術であるとは認め難く、引用発明において上記技術が採用されているものと理解すべき根拠とすることはできないものというべきである。

したがって、原告の上記主張は採用できない。

2  上記のとおりであるから、引用発明における「文字コード」が本願第1発明の「品名キーワード」・本願第2発明の「文字キーワード」に対応することは明らかである。そして、引用発明が文字コードを用いるという構成である以上、文字毎に文字パターン発生用の記憶装置が存在することは当然のことであるから、引用発明の「文字パターン発生用の記憶装置」は本願第1・第2発明の「第1のメモリ」に対応するとした審決の認定に誤りはない。また、引用発明においては文字コードを使用するのであるから、必然的に、品名に対応させて複数の文字コードを記憶するという構成も存在する。したがって、引用発明の「文字パターン発生用の記憶装置」は本願第1・第2発明の「第2のメモリ」の一部の作用を行い、引用発明の「文字パターン発生用の制御装置」は本願第2発明の「第2の制御手段」の一部の作用を行うとした審決の認定に誤りはない。

3  以上のとおりであるから、本願第1・第2発明と引用発明との各一致点についての審決の認定に誤りはなく、標記の取消事由はいずれも理由がない。

三  甲事件の取消事由2及び乙事件の取消事由3について

標記の取消事由は、本願第1発明と引用発明との相違点及び本願第2発明と引用発明との相違点〈2〉についての各判断の誤りを主張するものであり、本願第1発明において「品名キーワード」とされている構成が、本願第2発明において「文字キーワードおよび/または熟語キーワード」とされている点で相違するのみで、取消事由の実質的な内容は共通するので、一括して判断する。

1  読出し/書込み可能な制御手段を備えた記憶装置は周知であり、当該記憶装置においては、選択スイッチなどの切換手段を用いて、読出し/書込みの切換えを行うと共に、読出し/書込みの入力手段として同一入力装置を用いることは一般に行われている技術手段であることは、当事者間に争いがない。

ところで、前記のとおり、引用発明においては、品名の一連文字パターンを構成する1字1字の文字コードと文字パターンが対応付けられているのであるから、品名コードと文字コードを対応付ける記憶手段が必要であることは明らかである。そして、商品名を変更する必要性があることは当業者において当然認識されていることと考えられるから、上記対応付けを可変にすること、すなわち品名を変更することを可能にする技術手段を採用することは容易に想到し得ることというべきである。しかして、変化する品名の記憶装置、すなわち、品名コードと品名キーワード(本願第1発明の場合)・文字キーワードおよび/または熟語キーワード(本願第2発明の場合)の対応付けを記憶する記憶装置として、上記周知の読出し/書込み可能な記憶装置を選択採用すること、その際に、上記一般的に行われている技術手段によって読出し/書込みを行わせることは、当業者ならば容易に想到し得ることと認めるのが相当である。

2  原告は、本願第1・第2発明においては、品名コードと複数の品名キーワード(文字キーワード)とを対応付けるという技術思想、及びその対応付けを可変にするという技術思想に基づいて、入力装置、第1の制御手段、第2のメモリ及び切換手段の各要素を有機的に結合し、これらの有機的な結合の中において、書込み/読出し可能な記憶装置の特質を活かしているのであって、その用い方に技術思想としての創作性がある旨主張する。

しかし、品名コードと複数の品名キーワード(文字キーワード)とを対応付けるという技術思想は、引用発明における品目一文字パターン変換技術の構成の一部をなすものであることは、叙上説示したところから明らかであり、また、その対応付けを可変にするという技術思想も上記のとおり容易に想到し得ることである。そして、本願第1・第2発明における入力装置、第1の制御手段、第2のメモリ及び切換手段は、上記のとおり、周知技術に基づき容易に選択採用し得る事項であり、これらが特に有機的に結合されたものと評価することもできない。

したがって、原告の上記主張は採用できない。

3  以上のとおりであって、本願第1発明と引用発明との相違点及び本願第2発明と引用発明との相違点〈2〉についての審決の各判断に誤りはなく、標記の取消事由はいずれも理由がない。

四  乙事件の取消事由2について

1  単一の入力文字に対応して複数の文字を発生させること、すなわち、1つの熟語キーワードと複数の文字キーワードを対応づけることは、甲第8号証の1(特公昭51-1369号公報)にも示されるように周知の短縮技術であり、したがって、品名コードに上記周知の短縮技術である熟語キーワードを使用することは、短縮すべき文字列の使用頻度を勘案して当業者が必要に応じて行う設計的事項であることは、当事者間に争いがない。そして、引用発明には、品名コードに対応させて複数の文字コードを記憶する記憶装置、及び文字パターンを文字毎に対応付けて記憶する記憶装置が存在することは、前記認定のとおりである。

ところで、熟語キーワードを使用するとすれば、複数の文字キーワードと対応付けるための記憶装置(本願第2発明の第3のメモリに相当する)を具備する必要があることは当然のことであり、かつ、熟語キーワードを使用する際、品名が熟語キーワードのみでは表せず、熟語キーワードと文字キーワードが混在したものとなることも当然に予測されることである。そうすると、品名コードと複数の文字コードを対応付けて記憶する引用発明の記憶装置において、熟語キーワードと文字キーワードの混在したものを、その品名コードに対応付けて記憶しようとすることも当然選択されることというべきである。

以上のことを前提とすれば、熟語キーワードのドット印刷に際して、文字キーワードと混在して記憶されている記憶装置から熟語キーワードを読み出したときには、その熟語キーワードを本願第2発明の第3のメモリに相当する上記記憶装置を用いて複数の文字キーワードに展開した後、これらの文字キーワードに基づいて文字パターン発生用の記憶装置内の文字パターンを読み出すように構成することも、当業者ならば容易になし得る程度のことと認めるのが相当である。

2  原告は、本願第2発明は、1つの熟語キーワードに複数の文字コードを対応させる技術にとどまるものではなく、第2のメモリにおける品名の編集に際して熟語キーワードによる迅速な文字設定を行い得るようにし、かつ、印刷時には、文字キーワードと熟語キーワードの対応付けのみならず、第1、第2、第3の各メモリを用いた連係動作を行う技術内容となっており、相違点〈1〉は、引用発明及び甲第8号証の1に示される周知技術からは容易になし得るものではない旨主張する。

しかし、上記のとおり、品名コードに対応付けて周知の短縮技術である熟語キーワードを用いることは、当業者が必要に応じて行う設計的事項であり、この周知技術を採用するに当たって、編集作業(書込み作業)を書込み/読出し可能な記憶装置、すなわち、品名コードと複数の文字キーワードとを対応付けて記憶させた記憶装置を対象としてその書込み用とすることは、当然選択されるところであり、また、この選択に基づけば、本願第2発明における第1、第2、第3の各メモリを用いた連係動作を行う技術内容となることは必然的に定まる事項と認めるのが相当であって、原告の上記主張は採用できない。

また原告は、引用発明では、品名コードと文字キーワードとの対応付けは行っていないから、「当該使用に基づく熟語キーワードのドット印刷に際して、引用例において既に周知事項と認定した、品名コードー文字キーワードによるドット印刷と同様の手段(記憶装置、制御装置)を用いることも当業者ならば必要に応じてなし得る程度のことである」とした審決の判断は誤りである旨主張するが、引用発明においては、品名コードと文字キーワードとの対応付けを行っていることは叙上説示したとおりであるから、この主張は理由がない。

3  以上のとおりであって、本願第2発明と引用発明との相違点〈1〉についての審決の判断に誤りはなく、標記の取消事由は理由がない。

五  よって、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却すべきである。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙図面 1

〈省略〉

別紙図面 2

〈省略〉

別紙図面 3

〈省略〉

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